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2017-10-02

困っていることを探すことから.

「インクルーシブ教育ってさいきんいわれているけれど、何なんだろう?」「大学に入って勉強をはじめてから、何となく自分が周りとちがうような、そんな気持ちがしてきた」というみなさんに今回の記事は特に読んでもらいたいと思っています。

さて、前回の投稿に引き続き、この記事でも「慶應義塾大学障がい学生支援センター準備室」のプロジェクトメンバーの紹介とメッセージをお届けします。インタビューの第二回目の今回は、この準備室プロジェクトのメンバーであり、教職課程センター教授の佐久間亜紀先生にお話を伺いました。


語り:佐久間亜紀(教職課程センター教授/障がい学生支援センター準備室)

構成・写真:荻野亮一(社会学研究科博士課程/障がい学生支援センター準備室)

■ ボランティアの体験から

——本日は教職課程センターの佐久間亜紀先生からお話を伺います。まず先生のご専門を教えてください。

私の専門は教育学です。なかでも教育方法学といって、子どもたちが学校で勉強するときに、どういう方法で教えたら、子どもたちにもっと「わかる!」と思ってもらえるのか、ということを研究しています。また学校の先生方の力量形成の方法、つまり「いい先生ってどういう先生だろうか?」とか「いい先生を育てるためにはどうしたらよいだろうか?」ということを研究しています。


——佐久間先生が今回このプロジェクトに参加しようと考えられた理由をきかせてください。

2つの動機があります。

1つは、教員志望の学生たちに、「ひとりの子どもも切り捨てない教師」になってもらうために、大学で何ができるかを考え実践していきたいということです。慶應義塾大学にきて、障がいをもった学生たちがまだ可視化されていないように感じました。教員志望の学生たちの反応をみても、私たちの社会にどれほどさまざまな人が一緒に暮らしているかということについて、あまり意識が高くないように思えました。しかし、ひとたび教員になれば、心身の障がいだけでなく、セクシャル・マイノリティの子ども、親が離婚して苦しむ子ども、貧困におかれた子どもなど、さまざまな支援を必要とする多様な子ども達がいます。そういった様々な背景をもった子どもたちを包括的に支援することのできる先生、一人の子どもも切り捨てない先生を育てたいというモチベーションをもっています。

もう1つは、もっと個人的な動機です。私自身が、大学生のころ、聴覚障がいをもつ友人たちと出会い、手話サークルに入り、手話通訳のボランティアをとおして、さまざまな出会いをし、多くを学びました。当時は、聴覚障がい学生が大学に進学すること自体がまだ珍しく、在学中は、講義中の手話通訳を教授に拒否されたり、大学の卒業式で校歌を手話で歌いたいという当事者の希望を叶えるためにみんなで運動しなければならなかったり、さまざまな経験をしました。そのような個人的な経験がありますので、今度は私自身が、大学や社会のダイバーシティを推進するようなことに貢献したいと思って、メンバーに加わりました。


■ 多様な生きづらさ/困難さに
向き合うキャンパスの実現のために


——佐久間先生にとって、ダイバーシティの担保された/実現されたキャンパスとはどのようなキャンパスだと考えられますか?

みんなが、ここは自分の居場所だと思えるキャンパスです。それは、私はここにいる、こんな要望をもっていると、自分の声をあげることのできるキャンパスではないでしょうか。

慶應義塾大学に私が着任して一番おどろいたことのひとつは、車椅子にのっているひとをまず見かけないことでした。前任校では、講義をしていると、車椅子を利用する学生も含めて、たいてい何らかの障がいや支援を必要とする学生さんと出会います。聴覚障害をかかえているので、ノートテイカーを授業にいれてもいいですか、とかです。でも、私はまだ慶應にきて、そういう依頼を一度も受けていません。本当はきっと色々なニーズをもった学生さんたちはたくさんいるはずです。そういったひとたちが「いない」のではなくて「いえない」状態になっているのではないでしょうか。

そういう事情も踏まえて、自分はこういう人間なので、こういうニーズを持っていて、それについて支援を必要としています、ということを堂々といえるようになるキャンパスを目指したいと思っています。


——現在、キャンパスにおけるダイバーシティの実現に向けて、具体的にはどのような課題があると思われますか?

それぞれのニーズをもっている当事者は本当にたくさんいると思います。ぱっと浮かぶのは、障がいをもっている学生さんです。でも、ひとくちに「障がい」といっても様々ですよね。目にみえる障がいから目にみえない障害まであります。

また最近では、私の所属している教職課程センターでは、セクシャル・マイノリティの子どもたちに対する教育的支援について講義や演習で扱うようになっています。そのようなテーマで講義を続けていると、当事者の学生さんがたくさん声をあげてくれて、慶應にも当事者のニーズがたくさんあるのだいうことを実感させられています。大学からの当事者の学生達への支援が圧倒的に足りないという感想も直接きいています。これらはまず取り組まなければならない課題だと思います。

さらに、一人の女性としても、キャンパスの中にたくさん課題があると感じています。慶應義塾大学の学生や教職員のなかから、マスコミで話題になるような残念な事件も起きています。学生諸君のジェンダーに関するリテラシーをもっと高めていきたいと切望しています。あるいは、赤ちゃんを連れた人が慶應のキャンパスに遠慮なく足を運ぶことができるでしょうか。キャンパスの中で安心しておむつを替えられる場所がどこに何箇所あるでしょうか。そういったところから考えてみるだけでも、色々な課題があると思っているので、先ずはできることから少しずつ取り組んでいきたいと考えています。

 


■ インクルーシブな学びの場の保障


——近年、初等中等教育の領域では、インクルーシブ教育や発達に課題を抱えた子どもたちへ向けた支援ということが、さかんに取りざたされるようになったと感じています。このような傾向の高まりにはどのような背景や事情があるのでしょうか?


1994年に、スペインで開かれた世界会議でインクルーシブ教育の理念がはじめて唱えられ、日本では2010年に文科省によってインクルーシブ教育の方向性が示されました。また2014年には、国連の障害者権利条約を批准しました。この条約は、いままで社会や学校から排除されてきた障害のある人がこれ以上排除されないように、各国に法制度として実施すべきことを規定したものです。この条約の批准過程で、日本でもインクルーシブ教育という言葉が頻繁に聴かれるようになりました。

条約の批准過程で、最も議論になったのが学校教育です。なぜなら日本のいままでの特別支援教育は、障がいの種類と程度に応じて行くべき学校や学級が変わるという、分離教育制度が基本になっているので、インクルーシブではないという評価も多くされたからです。いま、インクルーシブ教育の実現に向けて、文科省や各自治体が主体となって、多様な子ども達が共に学ぶための基礎的な環境をどう整備していくか、さまざまな議論や試行錯誤が行われています。


——初等・中等教育の領域に比べて、高等教育の領域における障がいをもった学生への支援については、まだまだ情報が少ないようにも感じます。高等教育の段階でいわゆる「支援」を提供するにあたって、特に留意すべき点や考えなくてはならないことがあれば、教えて下さい。


インクルーシブな教育というのは、日本では障害児教育の問題だと考えられていますが、実はもっと広い概念です。家庭的・社会的・文化的に不利な立場にある人々が学ぶ機会を平等に保障する、という概念なのです。そして障がいのあるなしにかかわらず、多様な学生が学びやすい環境をつくるのが国や自治体や大学の責務だという考えが、その前提にあります。慶應義塾としても積極的に環境整備をおこなえるように、教員としてとりくんでいきたいです。
学生諸君に対しては、現状ではまだ課題も多いと思うので、ぜひ具体的にどのようなニーズがあるかを、大学側に積極的に伝えてほしいと思います。

ただ、本当に支援を必要としている人というのは、自分が何に困っているかも、誰にどのように助けてといえばよいかもわからないのだろうと思います。例えば、大学生になってから、自分は発達障がいだと診断をうけたが、ではいったいこれからどうしたらよいかわからない、というような人もいるでしょう。まず、どのような窓口が必要なのかということについても一緒に考えられるような場をつくりたいと考えています。


——WEBページをご覧のみなさんにメッセージをお願いします。

慶應義塾の中にダイバーシティを実現していくことは、大学が通らなくてはならない大事な道のりだと思っています。ぜひ一緒に私たちが求めるキャンパスの姿を実現できるようにがんばっていきましょう!


——佐久間先生、本日はありがとうございました。


<編集後記>

いま、ほんとうに困っているひとは、自分が困っていることにさえ、気づくことができないかもしれない。このことは援助や支援という営みの持つ根源的なジレンマであり、困難さであると思います。支援を受けることにアクセスすることができた時点でもしかしたら、そのひとの抱える困難さは何割かの程度で既に解決をしている、あるいは解決が約束されているのかもしれません。みなさんの困りごとを寄せて頂くことはもちろん、準備室のプロジェクトでは積極的に研究室の〈外〉へ出て学生や職員のみなさんとお話をする機会を今後設けていきたいと考えています。「すべてのひとに対して、いますぐに」ということはむつかしいかもしれませんが、それでも私たちは一歩ずつダイバーシティの確保されたキャンパスの実現に向けて進んでいきます。

(荻野)

 

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